「うつ病」という病気は、多くの人が一度は耳にしたことがある病気だと思います。もしかしたら、あなた自身、もしくはあなたの身近な人がうつ病を経験したことがあるかもしれません。誰にでもなり得る現代病の一つとされています。そういう私もうつ経験者の一人です。今はほとんど回復し、元気に生活しています!
私は自身の経験と、食事について少しだけ深く学んできた立場であることから、食事とうつ病の関係について興味を持ちました。今回は、「精神栄養学」をご専門とされている精神科学者 功刀浩(くぬぎひろし)先生の著書『こころに効く精神栄養学』を参考に、うつ病と食事の関係について私なりに分かりやすく解説したいと思います。
ストレス社会によりうつ病患者は急増中・・・
現在のストレス社会において、精神疾患、特に「うつ病」に罹っている患者は急増し、社会問題となっています。
2011年7月より、精神疾患は、ガン・糖尿病・脳卒中・心臓病とともに「五大疾病」の一つとして位置づけられています。2008年において精神疾患の患者数は323万人であり、五大疾病の中でダントツトップの患者数です。精神疾患の中でもうつ病の割合が一番多いとされています。
うつと食事の関係とは?
うつ病とは、『脳のエネルギーが欠乏した状態』です。憂うつな気分などの心理的な症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴うことをいいます。つまり、エネルギー不足により、『脳のシステムにトラブルが生じてしまっている状態』と言えます。
うつ病というと『心の病気』と思われがちですが、実際には『脳の病気』なのです。
うつ病とは、ストレスが原因とされる病気ですが、そのストレスをコントロールするのは、脳の「視床下部」というところにあります。この「視床下部」は、ストレスコントロールをするとともに、食欲をコントロールする場所でもあるのです。つまり、うつ病などの精神疾患においては、「食事」も大きく関係するということがわかります。
ヒトは食べた食事から得られる栄養素によって、脳や心を動かしています。このことからも食事とうつ病は密接な関係にあるといえます。
飽食の時代なのに栄養不足?
現代は「食事」という行為に対して全く困ることなく、美味しいものや好きなものを好きなだけ食べられる時代です。
食の西洋化・製品化が進んだからこそ、「日本の伝統的な食事から補っていた栄養素が不足している」というのが今の日本の現状です。
例えば、食物繊維や魚油などの多価不飽和脂肪酸、ポリフェノール、一部のビタミン・ミネラルなどが不足しています。
実際に、うつ病患者さんにはいくつかの栄養素が不足していることが多いというデータがでています。また、食物の過剰摂取やエネルギー過剰による生活習慣病も大きな問題です。糖尿病やメタボリックシンドロームなどはうつ病のリスクを高めるということも証明されています。
今後はうつ病においても、生活習慣病と同様に食事を改善したり、栄養指導を行ったりすることが重要になると考えられます。いずれの病気にしても「食生活の見直し」は病気の予防や治療においてとても重要なポイントとなります。
一方で、うつ病は、食生活を改善さえすれば完治するという病気でもありません。ストレスのかからない環境での療養、薬の服用、認知行動療法など、あくまでも総合的な取り組みが必要な病気といえます。
うつ病と栄養学的な問題との関連
生活習慣病と密接な関係
糖尿病、メタボリックシンドロームはうつ病のリスクとなります。
うつ病になるとこれらの病気の発症のリスクがとても高くなります。
地中海式食事のススメ
地中海式食事とは、野菜、果物、種実類、豆類、魚介類、オリーブオイが豊富で、それに穀類と適量のワインが加わった食事のことです。
アメリカなどの欧米諸国では、この地中海式食事に比べ西洋式食事(加工肉、ハンバーガー、ビールなど)を中心としている人の方がうつ病に罹りやすいとされています。
必須アミノ酸
アミノ酸では、トリプトファン(体内では合成できないアミノ酸の一種。食品から摂取する必要があるアミノ酸=必須アミノ酸)の摂取不足がうつ状態を引き起こす可能性があると指摘されています。
良質な脂肪酸
多価不飽和脂肪酸、特にn-3系脂肪酸(DHAやEPA)が不足するとうつになりやすいということが分かっています。
ビタミン
ビタミンでは、ビタミンB6、B12や葉酸の不足が関連しています。
ミネラル
ミネラルでは、鉄や亜鉛などの微量元素の不足がうつ病リスクを高めます。
腸内環境
腸内環境の悪化による免疫的変化がうつ状態を引き起こす可能性もあります。
食事のポイントは不足しがちな栄養素を補うこと!
うつ病と食事には、エネルギー摂取量の他にも、食事スタイル、ビタミン・ミネラル・アミノ酸・脂肪酸といった栄養素、緑茶・コーヒーなどの嗜好品、ハーブやサプリメントまで幅広く影響を受けます。
不足するとうつ病にリスクを高める栄養素とそれらを多く含む食品について詳しくみていきましょう。
ビタミン
ビタミンD :きのこ類、魚介類
ビタミンB1:豚肉(赤身)、うなぎ、玄米、ナッツ
ビタミンB2:レバー、うなぎ、納豆、卵
ビタミンB6:刺身、レバー、鶏肉、納豆、バナナ
ビタミンB12:貝類、納豆、レバー
葉酸:葉もの野菜、納豆、レバー
特に現代の食事では葉酸が欠乏しがちです。葉もの野菜や納豆、レバーを積極的に摂取するとよさそうですね。
また、ビタミンDの血中濃度が低いとうつ病のリスクが高くなることが分かっています。
ミネラル
鉄 :レバー、赤身肉、魚介、青菜類、納豆
亜鉛:カキ、うなぎ、牛肉、レバー、大豆製品、貝類
鉄の欠乏症では、貧血症が良く知られていますが、脳の機能障害も報告されています。睡眠障害や焦燥感、集中力低下、無関心といったうつ病に似た症状も引き起こします。
アミノ酸
トリプトファン:牛乳、乳製品、肉、魚、ナッツ、大豆製品、卵、バナナ
メチオニン :牛乳、乳製品、肉、魚、ナッツ、大豆製品、卵、野菜
チロシン :牛乳、大豆製品、魚(かつお節、しらす)乳製品、肉、卵、アボカド
トリプトファンが減少すると、うつ病患者やうつ病の素因を持つ人は気分が落ち込みがちになることが知られています。うつ病患者は健常者と比べ、血中トリプトファン濃度が低下していることも明らかです。
必須アミノ酸を摂取するためには、良質たんぱく質源となる食材(肉や魚、卵、大豆、牛乳など)をしっかり摂取することが大切です。
脂肪酸(不飽和脂肪酸)
DHA、EPA:魚(マグロ、ハマチ、いわし、ブリ、さば、さんま、鮭、うなぎ等)
DHAやEPAは動脈硬化や心筋梗塞の予防に効果がありますが、魚の摂取量が少ない人や血液中に不飽和脂肪酸濃度が低い人は、うつ病のリスクが高いことも分かっています。
サプリメントの活用
栄養補助食品としてDHAやEPAなどのサプリメントが販売されていますが、魚がどうしても苦手という人は試してみてもいいかもしれません。葉酸やビタミンD、鉄、亜鉛なども利用価値はあるかもしれません。
しかし、ミネラルは長期に渡り多量に摂取すると弊害の心配があります。医師に相談し血液検査などでチェックしながら補充するのが安全です。
さらに、『サプリメントを摂っているから食事は何を食べてもいい』というのは本末転倒です!あくまでも基本は三食の食事をしっかりとることです。サプリメントはあくまで補助的に活用しましょう。
「うつ病予防に有効な食事」はコレ!といった具体的なものはありません。他の生活習慣病の有効な食事と同様に、エネルギーの過剰摂取に気を付け、3食規則正しく、脂肪少なめ、良質たんぱく質多めな食事を心がけることがうつ病にリスクを下げることに繋がります。
生活リズムを整えるカギは「〇ごはん」にあり!
生活リズムを整えることにより、自分でも気づかない隠れストレス(例えばメールやSNSに拘束される「メディアストレス」など)を避けることができます。
心がけたいのは、できるだけ規則的な生活を送り、特に「朝ごはん」をきちんと食べることです。朝食をきちんと食べる習慣のある人は、摂らない人に比べ、うつ病リスクが低いことがわかっています。
朝ごはんをおいしく食べてストレス知らずへ!
早起きしてきちんと朝食を摂りましょう。
朝起きたら、太陽の光を浴びましょう。朝ごはんを食べることで体内時計がリセットされます。
おススメの朝ごはん
・主食:玄米や雑穀ごはん(食物繊維や栄養素の豊富な全粒穀物)
・おかず:たっぷりの野菜と良質たんぱく質(卵・大豆製品・肉・魚)
・汁もの:野菜、海藻、きのこ類など具だくさんのみそ汁
主食はパンや麺類(粉食)より、ごはん(粒食)をおススメします。咀嚼回数も増え、唾液分泌も増えます。それにより消化を助けます。雑穀を取り入れるとさらに、咀嚼回数増加に繋がります。また、雑穀に含まれるミネラルやたんぱく質を効率良く取り入れられます!
まとめ
うつ病とは・・・
・うつ病とは、五大疾病の一つ。
・うつ病とは、脳のエネルギーが欠乏した状態のこと。
・うつ病に罹ってしまったら、食生活を見直してみよう!
うつ病に関係する栄養学的な問題とは・・・
・生活習慣病にならないようにしよう
・地中海式食事を意識しよう
・アミノ酸を摂ろう
・良質な脂肪酸を摂ろう
・ビタミン、ミネラルを摂ろう
・腸内環境を整えよう
不足することでうつ病リスクを高める栄養素とは・・・
・ビタミン(D、B1,B2,B6,B12,葉酸)
・ミネラル
・アミノ酸
・DHA,EPA(不飽和脂肪酸)
生活リズムを整えるには・・・
・朝ごはんをきちん摂取し、規則正しい生活を意識しよう
いかがでしたか?
うつは食事によって予防・改善できるということが少しはわかっていただけたでしょうか?
難しいことは必要ありませんし、特別な食事をしないといけないわけではありません。規則正しい食生活というもっとも基本的なことでうつは予防・改善できます。
投薬治療や認知行動療法を続けてもなかなか病気が改善されない場合は、食生活を見直してみるといいかもしれませんよ♪